新しい働き方の「塊」を生み出す
ほとんどの企業の働き方は、この20年、基本的に変わっていません。
1. 組織人ワークスタイル
メールとPCが仕事の中心になったものの、社員の管理や意思決定のプロセスは、紙と電話で仕事をしていたときと変わりません。朝は会社に出勤し、窓際に座る上司に報告・連絡・相談し、いつもの食堂でご飯を食べて、午後になるとお得意先のオフィスに訪問します。会社に戻ると、外出中に入った電話のメモがあります。やおらPCを立ち上げて、メールと事務処理をします。
チームメンバーと打合せをしようとして日程をすりあわせようとしても、皆の日程がなかなか合わず、ミーティングは翌週になってしまいます。メールを出しても、なかなか返信はありません。
2. 自由人ワークスタイル
誰もが知っているとおり、スマートフォンとPCがあれば、会社もオフィスも食堂も要りません。
朝7時、食事が終わるとすぐに、音楽を聴きながらメールです。今日中に動いてほしいプロジェクトメンバーへの連絡、顧客へのアポイント確認など、たくさんのメールを出します。他人を動かすメールは、9時より前に出しておきます。一通りメールが終わると、10時に渋谷のコワーキングでプロジェクトメンバーと打合せです。1ヶ月後のイベントに向けてのアイデア出しで、その場でパソコンを開いて、イベントの設計をしてしまいます。ランチは、広告代理店とのビジネスミーティングです。ミーティングが終わるとスマートフォンで、提案中の顧客からの連絡に即座に返信、来週の役員提案の日程と概要が決まります。
だいたいこのあたりで、組織人ワークスタイルの人が1日かけて行う仕事はすんでしまうでしょう。まだ午後1時です。このあとも、13:00-15:00、15:00-17:00と、二つの全く異なるミーティングをこなします。ここまでで2倍、さらに夜の有効活用で3倍、週末の過ごし方も仕事のネットワーキングが広がり、結果として5倍くらいのスピード感で仕事が進みます。
組織人ワークスタイルが、「役割を果たすために働く」のに対して、自由人ワークスタイルは、「自分が楽しいことを仕事にする」のです。ですから、忙しそうに見えても、楽しく、まるで遊んでいるのか、仕事をしているのか、見分けがつかない毎日を過ごしています。人と会うのも、組織人ワークスタイルでは、緊張感ある交渉ごとのようですが、自由人ワークスタイルでは、親友と食事に行くような感じになります。
3. 働き方のパターン
下図に、働き方のパターンを2軸で4つに分けたものを示したいと思います。
横軸は、「組織人」か「自由人」かです。自由人は、起業家やフリーランス、組織人は会社員が中心と考えてください。
縦軸は、「身の丈コース」か「一人ではできないことコース」です。これはSVP東京創業者の井上英之さんとのフューチャーセッション「社会起業家精神の未来」で得たアイデアです。一人ではできないことコースを歩む人は、自分だけではできないような大きなビジョンを掲げ、「自分だけではできないけど、誰か一緒にやってください!」と周囲に働きかけます。一人ひとりができることは高が知れていますので、こういう人がいないと、大きな社会インパクトは生まれません。
右上の「組織人」×「一人ではできないことコース」は、大きなプロジェクトを推進する組織人です。人数的には少なくなりますが、もちろんここは面白い仕事です。問題は、このエリアで働く人たちの生産性が低いことです。内向きの会議、それに向けた大量の資料作成、やる気のない部門への説得など、一つの企画を実現するために、社内で費やす労力は半端ではありません。
彼ら組織人イノベーターが、自由人イノベーターである起業家たちと同じ土俵で知的競争を戦うのは、ハンディが大きすぎます。以前であれば、組織人にしか使えない資産がありましたが、今は組織人も自由人も使えるツールはほとんど同じです。
4. 新しい働き方をする人たちの「塊」
最近のトレンドは、組織人イノベーターが、自由人イノベーターとタッグを組むワークスタイルです。組織人イノベーターは、面倒な社内手続きをパスするために、そこを自由人イノベーターに委託します。自由人イノベーターは得意な領域を組織人の5倍のスピードで進め、組織人の持つリソースや信頼を活用して、そのアイデアを全国・世界へと広げます。
つまり、「自由人ワークスタイルの組織人」や「組織のリソースを活用する自由人」が渾然一体となった、「ハイブリッド・ワークスタイル」が生まれ始めているのです。
自由人と組織人のハイブリッドな働き方をする人が増えてきています。ですが、企業は見て見ぬ振りをしています。このようなワークスタイルを公に認めてしまうと、まじめに組織人として働いている人たちがクーデターを起こすのではないかと心配しているからです。
しかし、確実に新しい働き方をする人たちは増えてきています。次のような人たちが増えてきていますし、こういう人たちが会社の未来をつくると期待されています。
・企業の持つ課題を外に持ち出して、スピーディに問題解決する組織人
・NPOと一緒に活動しながら、自社のイノベーションのヒントを得ようとする組織人
・自社の業界とは無関係に、様々なオープンイノベーションの場に参加する組織人
このようなハイブリッド・ワークスタイルが、無視できない人数になってきていると思います。さらに企業側から見ても、イノベーションを促進していかなければ生きていけませんので、このようなワークスタイルを応援する必要があります。
今この時点で私の持っている「問い」は、ハイブリッド・ワークスタイルが、「団塊の世代」のように、ある一定の「塊」になったとき、彼ら彼女らの求めるライフスタイル、ワークスタイルに対して、どんな商品やサービスが提供されるようになるのだろうか、ということにあります。どうしたらこういう人を増やせるかではなく、増えてしまったとしたら、この社会はどう変わるだろうか、ということを今から考えておく必要があると思います。
あなたも考えてみてください。
ハイブリッド・ワークスタイルの人の割合が30%くらいを占める、未来の社会像を。
あなたは、そういう生き方をしたいですか? ものすごい数の人たちがそのようなスタイルに変わった時、この社会の構図やシステムは、どう変わっているでしょうか?
想像すると、わくわくしますね。