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2009年3月21日 (土)

研究部門がイノベーションを主導する時代は終わったのか

「中央研究所の時代の終焉」というセンセーショナルなタイトルの訳書が話題を呼んだのは、1998年。この書籍の原題が"Engines of Innovation"だということを考えると、これほどまでに影響力を与えた「訳書のタイトル」は、なかなかない。その後、企業の研究所は「短期的成果」の呪縛に、すっかり巻き取られてきたのではないだろうか。

「短期的成果」という文句のつけようのない合理的なパワーは、研究所の創造性をすっかり破壊した。「投資」としてのコーポレート予算の研究費は減り、「開発委託」としての事業部スポンサーシップの研究費の割合が増えた。本来、長期的成長の源泉を生み出すべき研究所が、事業部門の「面倒な開発」の下請けになり下がった。これでは、イノベーションが起きるはずもない。

その結果、研究者は受け身になる。もうからない研究テーマは次々と変更されるので、研究チームリーダーの仕事は、「テーマをつぶされないための」社内政治になる。ブランドメッセージが変われば、「その実現のための技術」と言い、社長肝入りのプロジェクトが立ち上がれば、「それと関連が深い技術である」とパワーポイントを書き換える。

では、研究者が「自分の研究の正当化」という人生から抜け出て、「夢を実現するイノベーター」に戻るためには、どのような行動原理が必要になるのだろうか? ひとつには、事業部からのリクエストを待つのではなく、「事業部に夢を与える」先制攻撃を仕掛けることだ。事業部側のビジョンや目標設定のフェーズに、助言者として関わるのだ。そのためには「自分の技術の正当化」という考えを徹底的に排除する必要がある。真理の追求者、最先端技術に最も長けた専門家として振舞うのだ。

研究所のトップは、「研究所のアウトプット」にこだわることをやめるべきだ。研究所の強みは、「質の高いインプット」と、「本質を追求し続けるプロセス」にある。事業部に対し、これら二つの価値を提供することで、「会社全体のアウトプットの最大化」に貢献する。つまり、研究所が「質の高い研究開発」の事務局力を発揮するということだ。そのことが、結果として研究所のアウトプットを最大化することになる。

具体的に示そう。

これまでの研究所は、独自の長期技術戦略を立て、それを示すことで事業部とコミュニケーションをしようとしてきた。このオーソドックスなスタイルは、事業検討のスパン(短期的)と、技術開発のスパン(長期的)が合わないため、結局のところ「研究所がやりたいことを正当化するために作られた」文書になってしまっていた。その結果、「そんなことより事業計画に合わせて、こんな技術を作ってくださいよ」という下請け研究が幅を利かすことになる。

それでは、事務局力のある研究企画はどのように行われるのか。まず、「事業部の長期的発展のための技術戦略」に目的を入れ替える。自ら下請け研究にまっしぐらのように見えるが、そうではない。事業部と協議の場を継続的に持ち、「事業部の将来のために研究所は何ができるのか?」という構想を一緒に作りこむのだ。大事なことは、「事業部と研究所が一体となって未来を考える」という場の設定だ。参加者のマインドセットを切り替えさせ、自部門の立場を超えて、全社視点でみんなが発言できるよう、ファシリテートする。

このような事務局力で、事業部側から「研究所には将来に備えた技術の検討をどんどん進めていってほしい。そこに私たちも投資を惜しまない。そこから得られた洞察をぜひ、短期的にも事業にフィードバックしてほしい。一緒に未来を創ろう」という言葉を引き出せるはずだ。研究者の持つ強みを柔軟に生かして、会社の未来創造のキャスティングボートを握ってほしい

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