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2009年3月10日 (火)

デザイン部門は最も創造的なのか

今日、生粋のデザイナーの人と「組織について」対話する機会があった。彼は、デザイン会社に所属していて、「このままでは自分の創造性はだめになる」という危機感のもと、後先考えずに独立を選んだそうだ。企業に属していたときは、どん欲に「新しいものを提案しよう」という気持ちが、今ほどはわかなかったと言う。

デザイン部門の仕事は、もちろんアーティストのそれとは異なる。こんなつまらないモノのデザインはできない、と投げ出すこともできない。目の前には「お題」がつねに与えられ、社内の様々なチェックを通るデザインが要求される。ともすると、「社内チェックを通りやすいデザイン」を作るのに慣れていってしまう。これは、経営企画部という、もっとも経営マインドが強いはずの部門が、「役員会に通りやすい資料を作るエキスパート」になってしまうのと似ている。

ここに、「創造的業務の落とし穴」の本質が見えてくる。つまり、「創造的業務は誰かが主観的に評価する」という、当たり前の構図だ。この「誰か」が、いつも同じであると、創造性はルーチン化する危険性がある。フリーのデザイナーも、創造的であり続けるためには、お得意様を作ってはならない、ということになる。つねに、新たな挑戦を探し続けなければならない。

哲学者の故 池田晶子さんが「14歳からの哲学」で、たしかこんなことを書いていた。『私は自分のことをプロだ、と言う人を信用しない。その根拠を聞くと、たいていは自分はそれで飯を食っているのだ、となるからだ。それは、誰かにお金をもらって仕事をしていることなのだから、本質を究めることをしていないに違いない』。正確ではないが、こんな内容であった。本当に創造的であるということは、自分自身を究め続け、成長させ続ける、新たな価値観に自分をさらし、挑戦し続ける。それが、本当のプロだ。そういうことを池田さんも言っていたのだろう。

では、どうすれば「デザイン部門」が創造的であり続けられるのだろうか?

佐藤可士和さんは、自身の最大の能力は、コミュニケーション能力であると言っている。アイデアは、すべてクライアントの中から引き出すので、枯渇することがない、と。この言葉に、大きなヒントがある。つまり、創造的であり続けるためには、評価者のためにデザインをするのではなく、ユーザのためにデザインをする、という当たり前のことを真摯に続ければよいということだ。企業のデザイン部門のデザイナーは、コンペで食っているわけではないのだから、評価者に好かれないデザインを作っても、明日の飯には困るまい。徹底的にユーザとコミュニケーションし、ユーザのニーズの本質を解明して、それをシンプルに実現するデザインを作る。それは、きわめて創造的な仕事になる。

企業デザイナーのため息が聞こえてきそうだ。分かっているけど、そんな時間を与えられていないんだよ、と。はっきり言おう。他責にして、あとで一番損をするのは、デザイナーとしての成長が止まった、その人自身である。それがいやだったら、とことんやるしかないではないか。時間がないならやらないような仕事は、最初からやめてしまった方がよい。自戒を込めて。

とは言っても、ここで終わってしまっては、苦言を呈するだけになってしまう。最後に、デザイナーの事務局力について考えてみたい。優秀なデザイナーは、最高のファシリテーターであることが多い。それは、アーティストとは違って、デザイナーはあらゆるステークホルダー(経営者、プロジェクトリーダー、広報宣伝、ユーザ、世論など)のあらゆるわがままをじっくり聞いた上で、一つの明確な具体物を作り出さなければならないからだ。あいまいな多くの人の意見から、具体的なイメージをさらす必要がある。それは才能ではなく、スキルだ。

デザイナーは、あらゆるステークホルダーの言う素人的アイデアに対して、真剣に耳を傾けなければならない。ケアとアガペーがなければ、優秀なデザイナーにはなれないということだ。ステークホルダー同士が衝突して、矛盾が生じたときは、すっくと立ち上がって、鍋奉行よろしくホワイトボードにスケッチを始めなければならない。たいていの衝突は、抽象論のズレから始まる。デザイナーが、最高の事務局力を発揮する瞬間である。そしてもちろん、事務局力の七つ目の道具である「あとづけバイオグラフィー」は、デザイナーの十八番、「あとづけグラフィック」だ。そのデッサンを見て、「そう、そう、こういうことを言ってたんだよ」と、ステークホルダーが口を揃えたときに、「そうですよね」と言う寛大さが必要だ。社内デザイナーの皆さん、事務局力を発揮し、創造的なデザイナーであり続けてください。

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「事務局力」の基本と実践」カテゴリの記事

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