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2009年2月 7日 (土)

大企業の行動原理は、イノベーションと対極にある

大企業に勤める友人たちに聞いてみた。「みなさんの会社で、社会インパクトを目的とする社会イノベーションというものが、これから大事になるという認識はありますか?」答えは一様に、「No」であった。あったのは、「環境対応は、そこに市場があるから取り組んでいる」という意見だけだった。

一方で、「もともと創業期はそういう志だったのだが」、といった意見もいただいた。つまり、創業期は社会貢献の志で立ち上がった企業が、規模が大きくなり、株主の影響力も大きくなったため、「もうかるもの」に取り組むことが使命となってきてしまっている、という現状が透けて見える。

意識の高い人たちに聞いたので、「自分は大事になると思っているのだが」、と皆が口をそろえて言ってくれたのが救いだ。しかし同時に、「社会のためになっても、一見儲からないものに取り組むことは難しい。市場性がなければ、そこから先には行けない」と言う。

さて、これが正しい企業の現状認識であることは疑いはないが、この「常識」は、果たしてこれからも合理的なのだろうか?

もう一度、社会起業家のイノベーション行動原理を振り返ってみよう。

社会起業家は、まず「社会の不均衡」に憤るところからスタートする。これは、ビジネスで言うところの「潜在ニーズ」に当たるところであろう。これをなんとか解決したいと考える。ソーシャルとビジネスのここでの違いは、最初に強い「動機付け」があるかどうかだ。何が何でも解決したい、その気持ちが周囲を動かすパワーを持っている。それは、「もうかりそうだ」から始めるビジネスでは、まったく太刀打ちできないパワーがここには存在する。もちろん、ビジネスの世界でも、この強い動機付けから始まる人たちはいる。これを成功要因と言っても過言ではないだろう。

次に、社会起業家は「使われていない価値ある知識やリソース」を見つける。この知識やリソースをどんな範囲で探すか、壁を設けずにオープンエンドで考えるところが、社会起業家の真骨頂だ。誰かの役に立ちたい、自分の知識を役立てたいと潜在的に思っているボランティア予備軍を組織化したり、援助対象の人たちの中から一部のやる気のある人を教育して、相互扶助の仕組みを作ったり。さらにはライバル企業の使われていない知的財産を寄付してもらったり、プロフェッショナルのボランティアを集めたり。オープンソースのネットワークを作っていくのが社会起業家のやり方だ。これに対して、ビジネスはどうしても「自前主義」に陥りやすい。社内のリソースだけをあてにしたり、全部自分でやろうと計画したりと、ライバル企業を出し抜くことばかりを考える。企業を超えて手を取り合って、一緒に市場を作っていく、それによって社会インパクトを高めていく、そういった発想を持つことはきわめて稀である。

では、この社会起業家の行動原理は、ビジネスの世界とは異なるのであろうか?

この二つの行動原理を見て、私はiPodを立ち上げたときのスティーブジョブスを思い出さずにはいられない。彼は、ナップスターによる社会現象を見て、もちろんそこに大きな市場があることを予測したわけだが、それ以上に、レコード会社にすべての音楽の権利が握られていること、その社会的不均衡に怒りを感じたのではないだろうか。あの時点で、誰もMP3プレイヤーやインターネットミュージックストアが「儲かりそう」と感じていたわけではないだろう。

次に思い出してほしいのは、iPod/iTunesの立ち上げの早さだ。ジョブスはほとんどの技術を社外から獲得し、それをインテグレートするところ、美しく使いやすいデザインに、シンプルにまとめあげるところにすべての力を注ぎ込んだ。知識やリソースをオープンエンドでかき集め、そして自分の美学を追求する。まさに社会起業家の行動原理、そのものではないか。

そして忘れてはならないのが、「社会の不均衡」と「潜在的な価値ある知識資産」の間をつなぐ、もっとも重要なファクターが、「本質的な対話」だということである。社会起業家も、ジョブスも、潜在的な知識やリソースをもつステークホルダーに自らのアイデアを話し、そして相手の意見に耳を傾ける。相手の持っている希望、不安、そして美学を理解し、それを自らのアイデアに加えていく

このような行動原理なしに、イノベーションなど起こせるはずがない。今の大企業の行動原理では、せいぜいが、既存市場で半年間くらいは差別化できるヒット商品を生み出すことが、精一杯だろう。
それでいいのか?大企業よ、めざめよ!

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