« 福島正伸さんの「リーダーになる人のたった一つの習慣」が示すもの | トップページ | 大企業の行動原理は、イノベーションと対極にある »

2009年1月25日 (日)

社会起業家の「行動科学」から学ぶこと

国際大学GLOCOMの「イノベーション行動科学プロジェクト」では、次のような主張をしてきた。

「イノベーションが起きるかどうかは、戦略や技術の問題ではなく、人の行動にある。新たな気づきを得たとき、何かの壁にぶち当たったとき、次の一歩を踏み出せるかどうか、つまりイノベーション行動が起こり、連鎖して広がる確率が、イノベーションの可能性を決定付けている。」

このことを理論的、実践的に示していくことによって、「企業経営のパラダイム」を管理・統制型から、創造性中心のものへと革新したいと考えている。

そのための一つのアプローチとして、既存の経済価値を超えたところで行動を起こす「社会起業家」の行動原理に注目した。イノベーション行動科学プロジェクトのメンバーにもなっていただいた、CAC-社会起業家研究ネットワーク代表の服部篤子さんが、「プラカデミア サロン for Social Innovation」を毎月開催してくださるということになり、幸運にも多くの社会起業家の方々と出会うことができた。

2008年度に開始したプラカデミアサロンも、先週9回目が開かれ、いよいよ今年度最終回を残すのみとなった。ここで、「社会起業家の行動科学」から何を学ぶことができたかを一度まとめてみたい。

  • ベルロックメディアの中多社長は、吉本興業の新規事業としてスポンサード・コンテンツ事業を立ち上げたのだが、その原点には広告ビジネスがもうけ過ぎているという「社会的不均衡に対する挑戦」の精神があった。
  • TABLE FOR TWOの小暮事務局長は、マッキンゼーを辞めて、一回の「ヘルシーな昼食」が、一回の「途上国の子供の給食」のプレゼントになるという、NPO事業を立ち上げた。その背景には、先進国では食べすぎやメタボが社会問題になり、社員食堂では、ヘルシーな食事を社員に提供することが義務化されるような動きがあった。言うなれば、先進国から途上国へのカロリーの移転だ。
  • キッズベースキャンプの島根社長は、自分の子供が「学童保育に行きたがらない」という個人的なニーズを充足させるべく、「キッズMBA」というコンセプトの高級学童保育事業を立ち上げた。学童保育という、経済メカニズムからはずれた活動に「価値」を与えた。
  • ワールド・ビジョン・ジャパンの片山事務局長は、現場を知るNGOだからこそできる社会提言機能、「アサーティブネス」の重要性を語った。ワールド・ビジョンは途上国の子供の里親になり、自分が寄付を送っている子供から手紙が来るサービスで有名だが、その途上国支援の範囲はもっと広い。今でも手紙が来るというベースは変えていないが、もっとも重要なことは「一人を助けることではなく、コミュニティに自立する力をつけること」だと言う。
  • 銀座ミツバチプロジェクトの田中副理事長は、銀座のビルの屋上で養蜂を始めた、たいへんユニークな取り組みだ。その背景には、「銀座の持つ歴史の再発見」をと願う、ビルオーナー会社の田中さんの個人的な想いがあった。田中さんがミツバチを飼うことで、周辺のビルでお花を育てる人が増えたり、屋上緑化を始めるビルが増えたり、銀座ミツバチブランドの高級菓子が百貨店で売り出されたりと、銀座のミツバチネットワークがどんどん広がった。
  • アリジェン製薬の所社長は、「日本のバイオ研究の裾野の広さは富士山並み」と声高に叫ぶ。せっかくの多数の研究成果も、薬に仕上げるためには、広くて深い「死の谷」を越えなければならない。所社長は、研究成果を持ち込む研究者に対して、スマイル、スマイル、スマイル、つまり愛情を持って一緒に考えてあげる、それが成功要因であると言う。たった20人の会社が、世界の巨大製薬会社を凌ぐ成果を挙げ、CSR薬品まで作っている。そこに、日本元来の強さがあると言う。

すべての社会起業家に共通するのは、「社会的不均衡の是正」をしたいという、「強い想い」を持っていることだ。

ソーシャルイノベーションの機会(1):
「社会的不均衡」 = (「ある地域でのムダ」 - 「他の地域での不足」)
を発見する。

但し、この社会的不均衡に対して、社会起業家は「強い想い」を持っていなければ、人をひきつけることができない。

もう一つの社会起業家に共通する要素は、「潜在的な知識資産の発見と活用」に成功していることだ。

ソーシャルイノベーションの機会(2):
「潜在的知識資産」 = (「使われていない価値ある知識」 - 「知識不足の地域・領域」)
を発見する。

但し社会起業家は、この潜在的知識資産を持つ人と、知識不足の人をつなぐための「ネットワーク力」を持っていなければならない。

つまり、数式的に書くならば、これら二つの機会を発見し、組み合わせることができることによって、社会起業家はソーシャルインパクト(社会をよりよくする成果)を達成し得るのだ。社会起業家は一人だけでなく、多くの人とネットワークすることで、そのインパクトは、そのΣとなる。

社会起業家の行動科学:
Σ(社会的不均衡 × 潜在的知識資産) = ソーシャルインパクト

社会起業家と言うと、どうしてもムハマド・ユヌス氏のようなスーパースターを思い起こしてしまうが、この「社会起業家の行動科学」の公式は、私たち企業人の小さな一歩にも十分に役立つものである。

仕事の中で、社会的不均衡を見つけよう。そして、潜在的知識資産を活用して、その解決を図ろう。それが、大きなソーシャルインパクトにつながり、それは企業にとっても大きな価値を生み出すだろう。

最後に、「社会起業家の行動科学」の公式を成功に導くための、最大の成功要因を示して終わりたい。それは、「社会的不均衡のある二つの地点の間で、潜在的な知識資産がどのように流れていくか、分かりやすい形で可視化する」ということだ。TABLE FOR TWOやワールドビジョンは、一回の寄付行為ごとに、それが誰か特定の一人をどのように支援しているかを明示的にすることに、とことんこだわる。この可視化が、社会的不均衡を克服したいと願う小さな一歩に、持続性を与えるのだ。

« 福島正伸さんの「リーダーになる人のたった一つの習慣」が示すもの | トップページ | 大企業の行動原理は、イノベーションと対極にある »

GLOCOM」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1140210/27453577

この記事へのトラックバック一覧です: 社会起業家の「行動科学」から学ぶこと:

« 福島正伸さんの「リーダーになる人のたった一つの習慣」が示すもの | トップページ | 大企業の行動原理は、イノベーションと対極にある »