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2009年1月の11件の記事

2009年1月25日 (日)

社会起業家の「行動科学」から学ぶこと

国際大学GLOCOMの「イノベーション行動科学プロジェクト」では、次のような主張をしてきた。

「イノベーションが起きるかどうかは、戦略や技術の問題ではなく、人の行動にある。新たな気づきを得たとき、何かの壁にぶち当たったとき、次の一歩を踏み出せるかどうか、つまりイノベーション行動が起こり、連鎖して広がる確率が、イノベーションの可能性を決定付けている。」

このことを理論的、実践的に示していくことによって、「企業経営のパラダイム」を管理・統制型から、創造性中心のものへと革新したいと考えている。

そのための一つのアプローチとして、既存の経済価値を超えたところで行動を起こす「社会起業家」の行動原理に注目した。イノベーション行動科学プロジェクトのメンバーにもなっていただいた、CAC-社会起業家研究ネットワーク代表の服部篤子さんが、「プラカデミア サロン for Social Innovation」を毎月開催してくださるということになり、幸運にも多くの社会起業家の方々と出会うことができた。

2008年度に開始したプラカデミアサロンも、先週9回目が開かれ、いよいよ今年度最終回を残すのみとなった。ここで、「社会起業家の行動科学」から何を学ぶことができたかを一度まとめてみたい。

  • ベルロックメディアの中多社長は、吉本興業の新規事業としてスポンサード・コンテンツ事業を立ち上げたのだが、その原点には広告ビジネスがもうけ過ぎているという「社会的不均衡に対する挑戦」の精神があった。
  • TABLE FOR TWOの小暮事務局長は、マッキンゼーを辞めて、一回の「ヘルシーな昼食」が、一回の「途上国の子供の給食」のプレゼントになるという、NPO事業を立ち上げた。その背景には、先進国では食べすぎやメタボが社会問題になり、社員食堂では、ヘルシーな食事を社員に提供することが義務化されるような動きがあった。言うなれば、先進国から途上国へのカロリーの移転だ。
  • キッズベースキャンプの島根社長は、自分の子供が「学童保育に行きたがらない」という個人的なニーズを充足させるべく、「キッズMBA」というコンセプトの高級学童保育事業を立ち上げた。学童保育という、経済メカニズムからはずれた活動に「価値」を与えた。
  • ワールド・ビジョン・ジャパンの片山事務局長は、現場を知るNGOだからこそできる社会提言機能、「アサーティブネス」の重要性を語った。ワールド・ビジョンは途上国の子供の里親になり、自分が寄付を送っている子供から手紙が来るサービスで有名だが、その途上国支援の範囲はもっと広い。今でも手紙が来るというベースは変えていないが、もっとも重要なことは「一人を助けることではなく、コミュニティに自立する力をつけること」だと言う。
  • 銀座ミツバチプロジェクトの田中副理事長は、銀座のビルの屋上で養蜂を始めた、たいへんユニークな取り組みだ。その背景には、「銀座の持つ歴史の再発見」をと願う、ビルオーナー会社の田中さんの個人的な想いがあった。田中さんがミツバチを飼うことで、周辺のビルでお花を育てる人が増えたり、屋上緑化を始めるビルが増えたり、銀座ミツバチブランドの高級菓子が百貨店で売り出されたりと、銀座のミツバチネットワークがどんどん広がった。
  • アリジェン製薬の所社長は、「日本のバイオ研究の裾野の広さは富士山並み」と声高に叫ぶ。せっかくの多数の研究成果も、薬に仕上げるためには、広くて深い「死の谷」を越えなければならない。所社長は、研究成果を持ち込む研究者に対して、スマイル、スマイル、スマイル、つまり愛情を持って一緒に考えてあげる、それが成功要因であると言う。たった20人の会社が、世界の巨大製薬会社を凌ぐ成果を挙げ、CSR薬品まで作っている。そこに、日本元来の強さがあると言う。

すべての社会起業家に共通するのは、「社会的不均衡の是正」をしたいという、「強い想い」を持っていることだ。

ソーシャルイノベーションの機会(1):
「社会的不均衡」 = (「ある地域でのムダ」 - 「他の地域での不足」)
を発見する。

但し、この社会的不均衡に対して、社会起業家は「強い想い」を持っていなければ、人をひきつけることができない。

もう一つの社会起業家に共通する要素は、「潜在的な知識資産の発見と活用」に成功していることだ。

ソーシャルイノベーションの機会(2):
「潜在的知識資産」 = (「使われていない価値ある知識」 - 「知識不足の地域・領域」)
を発見する。

但し社会起業家は、この潜在的知識資産を持つ人と、知識不足の人をつなぐための「ネットワーク力」を持っていなければならない。

つまり、数式的に書くならば、これら二つの機会を発見し、組み合わせることができることによって、社会起業家はソーシャルインパクト(社会をよりよくする成果)を達成し得るのだ。社会起業家は一人だけでなく、多くの人とネットワークすることで、そのインパクトは、そのΣとなる。

社会起業家の行動科学:
Σ(社会的不均衡 × 潜在的知識資産) = ソーシャルインパクト

社会起業家と言うと、どうしてもムハマド・ユヌス氏のようなスーパースターを思い起こしてしまうが、この「社会起業家の行動科学」の公式は、私たち企業人の小さな一歩にも十分に役立つものである。

仕事の中で、社会的不均衡を見つけよう。そして、潜在的知識資産を活用して、その解決を図ろう。それが、大きなソーシャルインパクトにつながり、それは企業にとっても大きな価値を生み出すだろう。

最後に、「社会起業家の行動科学」の公式を成功に導くための、最大の成功要因を示して終わりたい。それは、「社会的不均衡のある二つの地点の間で、潜在的な知識資産がどのように流れていくか、分かりやすい形で可視化する」ということだ。TABLE FOR TWOやワールドビジョンは、一回の寄付行為ごとに、それが誰か特定の一人をどのように支援しているかを明示的にすることに、とことんこだわる。この可視化が、社会的不均衡を克服したいと願う小さな一歩に、持続性を与えるのだ。

2009年1月24日 (土)

福島正伸さんの「リーダーになる人のたった一つの習慣」が示すもの

サラサラ・ワールドカフェに、株式会社アントレプレナーセンターの方が参加されて、お土産に同社代表の福島正伸さんの「リーダーになる人のたった一つの習慣」をいただいた。

サラサラ・ワールドカフェを22時近くまで楽しみ、家に着いたのが23時を過ぎていたはずだ。話し疲れていて、帰宅後に遅い夕飯を食べて、お風呂に入るときは、もう今にも寝てしまいそうな感じであった。

しかしその直後、驚くことが起きた。

帰りの電車で読み始めたこの本を、風呂に入る前にちょっと読んでいたら、なんだか先が気になって、風呂から上がって、髪の毛を乾かすのも忘れて完読してしまったのだった。とにかく、よくできている。

三人の経営者の卵が登場し、三人三様のアプローチで、異なる店舗の経営立て直しに挑む。一人は戦略的に、一人は創造的文化を作ろうと、もう一人は奉仕の気持ちを持って。まったく違うアプローチなのだが、その成功の秘訣は同じである、というのが「たった一つの習慣」のポイントなのだが、腑に落ち方が半端ではない。

私は、この二人目の創造的文化を作るアプローチをするだろうなぁと思って読んでいった。そうしたら、見事に私自身が陥りそうなところで、この登場人物も壁にぶち当たって、あきらめそうになる。そこで示される助言が、まさに自分にとって、目から鱗。その通りだよ!と叫ぶほどに、言い当てられた感じだ。

チームを率いる立場にある人、プロジェクトをリードする立場にある人、事務局を務める人、組織のトップに立つ人。こういった立場の人であれば、誰もがこの本を読んでから、明日を迎える価値があるだろう。

仕事に「祭り」を: サラサラ・ワールドカフェ@KDIでの気づき

鈴木さん主宰のソーシャルキャピタル研究会のメンバーと、「サラサラの組織」のワールドカフェをKDIで行った。たいへん大勢の方、30名以上の方々にお集まりいただき、とても楽しい時間をすごすことができた。

創造的な対話や働き方の研修やコンサルティングを行っている人たちの集まりであったが、たいへん興味深いと感じたことは、「自分自身がガイドしている『創造的な対話』」が、「自分自身の組織ではできていない」、というギャップに悩んでいる人が多いということだ。

これは、紺屋の白袴なのだろうか?私の結論は、Noだ。この日のワールドカフェを通しての、一つの共通の気づきが「自分もできるという自信を持とう」ということであったが、それと似たところがある。創造的な対話がつねにできる人などいない。というより、いつも創造的だったら気持ち悪い。人間なのだから、気分もある。つねに創造的であることよりも、「あ、今の対話は創造的でなかったぞ」と気づくこと、時には意識して創造的な方向に対話をもっていくこと、そういったことができることが、創造的な対話をガイドすることのできる人なのだと思う。もし逆に、何の意識もなく、いつも創造的な対話をする人がいたら、それは「天然クリエイティブさん」なのであって、他の人が「なぜ創造的でなくなってしまうのか」という気持ちに共感することすらできないだろう。そう、うまくできなくていいのだ。うまくできなかったことに気づくこと、それができることがもっとも大事なのだ。

「サラサラの組織」というテーマで、集まった方々の関心が集まったのが、「いかに人と人とがつながるか」というベーシックな問題だった。興味深いことに、「本来、人は『つながりたい』と思っているはずなのに、会社組織の中で、本当の意味での『つながり』がなくなってしまっている」、という声が多く挙がっていた。組織が生み出しがちな、何らかの閉ループに陥って、抜け出せなくなっているのかもしれない。

この閉ループをどうやって抜け出せばいいのだろうか?その最大のヒントが、鈴木さんの口から出た「祭り」というものだというのが、私にとってこの日の最大の気づきである。その「祭り」の効用を説明する前に、まずは、なぜ組織は人と人とのつながりを失わせていくのか、そのメカニズムを考えてみたい。

・意志: 人は何かをやりたいという「意志」を持って組織に属す。一人ではできない、大きな目標を達成するために、組織を作る。
→組織: 組織は効率性を求める。大勢の人が並行して働くことができるように、分担、分業する。安定的に仕事が流れるように、管理をする。すべては、大きな目標を達成するためだ。
→つながり: 組織が効率的に動けば動くほど、「つながり」がなくなる。つながりがなくなると、「手段の目的化」が起こり、だんだん、仕事は生産性高くやっているのだが、「何のためにやっているのか?」という意味の喪失を招く。
→最初に持っていた意志は、どこへ行ってしまったのだろう?

この閉ループはとてつもなく強力だ。あらゆる組織が、この閉ループに人々を巻き込んでいく。まるで、地球の引力のように、失速した人工衛星を飲み込んでいく。

この閉ループへの引力から脱するために、意味の再認識をするために、「祭り」があるのだ。
・祭りは、効率を求めない。冗長性がある。
・祭りは、参加する人を人事評価したりしない。
・祭りは、批判し合わず、囃し合う。
・祭りは、お金でなく、意味でつながる。
・祭りは、儲かるからではなく、楽しいからやる。

このような、組織の論理と正反対の力をもつ「祭り」が、企業の活動、業務の中に織り込まれていったとき、その組織は本来の人と人とのつながりに気づき、あらためて意志や意味を再確認することができる。その結果、持続的に価値を生み出し続ける組織でいられるのだ。

祭りの仕事への取り込み方には、次の二通りがあるのではないか。
1) プロジェクトの運営に、「祭り」の原理を取り込む。
2) 年に数回、定例的に「祭り」のようなイベントを行う。

思い返せば、KDIでは、この1), 2)両方を自らの組織運営の中に自然に取り込んできていた。1)は、我々の最大のプログラムである、「ナレッジベンチマーキング(Service B)」だ。3ヶ月間にわたり、クライアント企業8社の変革リーダー5人ずつに集まっていただき、約40名の企業横断コミュニティで、日米欧の知識創造企業10社を見て回る。そのクライマックスは、ヨーロッパかアメリカへの旅を9日間ともにする、ベンチマーキングトリップだ。

クライアント企業にとっても、KDIのクルーにとっても、このプログラムは、明らかに「祭り」の要素を持っている。海外トリップの最終日は、KDIクルーも、クライアント企業からの参加者も、企業を超えて、みんなが泣き、笑い、ハグするほどの同志になる。この「祭り」をともにした仲間は、一生涯の友だ。帰国後、自社の改革を進めるときには、お互いが心の支えとなる。「今から役員プレゼンに行きます!」といったメールが飛んだりもする。そうすると、他社の変革リーダーから、「Good Luck!」といったメールが飛び交う。超うるうる(涙)しながら、それを見ている。

もう一つの祭りは、自分たちの定例行事だ。年に8回は開催する、コミュニティ企業の交流会、それから、仕事でお世話になったフリーの方や、KDIクルーの家族を呼んで、KDIスタジオでクリスマスパーティを開く。子供たちも走り回る、会社とは思えない、本格的なパーティだ。

こうして振り返ってみると、幸せだなあ。仕事に「祭り」があるのは。

鈴木さんはじめ、ソーシャルキャピタル研究会の皆さん、気づきの多いワールドカフェをありがとうございました。

2009年1月17日 (土)

阪本啓一さんの初小説「HOPE!」

マーケティングやブランディングに興味ある人で、阪本啓一さんを知らなかったらモグリだ。彼の「人の心に刺さるマーケティング」のものの見方は、業種問わず、必ず目からうろこが落ちる。本もたくさん出しているが、メルマガはまた大人気だ。

阪本さんとは、山本藤光さん主宰のKENKENという熱い勉強会で知り合い、「五感商品の創りかた ~ スローなビジネスに帰れ2」ではKDIを事例として取り上げていただいた。

そんな阪本さんが、初めての小説を出した。正直、「初めてだ」と聞いて、驚いた。「あれ?小説なかったっけ?」と思った。阪本さんの書くものは、すべてストーリー性があり、心の中にその場面が印象としてずっと残る。だから、小説を読んだことがあるような錯覚に陥っていたようだ。

「HOPE!」は、「仕事に新しい発想を取り込む」ことと、「自分を大切にして生きる」ということが、ひとつにつながっていることを、たいへんシンプルに、それでいていつまでも心に残る形で伝えてくれる物語だ。

先日、私がサポートしている企業で、全社挙げてのコミュニケーションイベントがあった。そこでの開会の挨拶をした社長さんの弁、「ワークライフバランスとは、充実した生活が、仕事の質や生産性を高めること。だから仕事ばかりしてないで、人生を楽しんでくれ。そうしないと、会社は発展しないのだから」。この言葉の意味は、「HOPE!」を読めばとてもよくわかる。腑に落ちる。そしてもうひとつ。HOPE!が伝えてくれるのは、必死に仕事をするということは、人と真剣に向き合い、自分自身をしっかりと見つめて生きていくこと、という仕事観だ。

ぽかんと空いた週末、ちょっとした小旅行、ビール片手に気軽に読んでほしい。とても後味のいい、清涼感を心にも残してくれること、間違いなしだ。

2009年1月10日 (土)

関西ラジオ「ラジオの街で逢いましょう」でのトークがWeb公開されました

ワォ!

関西ラジオの深夜番組「ラジオの街で逢いましょう」で放送された、私の「30分イノベーショントーク」がWeb公開されました。Podcastでもダウンロードできます。

「ラジオの街で逢いましょう」にアクセスしてみてください。iTunesにダウンロードするか、あるいはストリーミングで聞くことになります。ストリーミングの場合はユーザ登録(無料)が必要になりますので、辛抱強くやってみてください。

radiodaysこちら、録音当日の写真です。

この番組では、GLOCOMの「イノベーション行動科学」プロジェクトを一緒にやっている、菊地さんがパーソナリティをやっています。和気あいあいと、とても楽しくトークになっています。なんといっても深夜ラジオですし、「やさしくねー、面白くねー」と言われていましたので、「イノベーションのテーマでの対話とは思えないほど笑える(coldsweats01?)話」になってます。

ぜひ、聞いてみてください。「イノベーションなんて、難しくて分からん」という人にこそ、聞いていただきたいです。

2009年1月 4日 (日)

事務局力を鍛える

七つ道具は、使えば使うほど、必ず上達する。そのための機会は、簡単に見つかるはずだ。

どんなに単純な打合せであっても、打合せの前(before)、間(during)、後(after)を意識して活動することができる。チームの定例ミーティングなどは、格好のターゲットだ。なぜなら、定例会議ほど、この前、間、後を意識して活動している人が少ないからだ。事務局を買って出れば、ほぼ確実にリーダーから感謝されるだろう。感謝されながら、同時に自分を鍛え、さらに目に見えない形で思い通りにチームをコントロールできるとは、一石三鳥だ。

【会議の前(before)】=ケアメール、アガペーモード の実践

事務局力の七つ道具(1): ケア(care)メールの実践
全参加者に個人的なコンタクトをとり、一人ひとりの考えを聞き、メモを取る。その上でアジェンダを作り、emailで全員に発信する。

事務局力の七つ道具(2): アガペー(神の愛)モード の実践
打合せの直前に、全メンバーの顔を眺め、「自分はこの人たちのために会議を仕切る」と想う。愛を込めて。

【会議の間(during)】=鍋奉行ホワイトボード、付箋ワークセッションの実践

事務局力の七つ道具(3): 鍋奉行ホワイトボード の実践
とにかくホワイトボードの前に座る。会議をコーディネートしながら、全員の満足をつねに考えながら発言を促す。会議の最中には、できるだけ一人ひとりの名前を挙げ、「誰々さんはこう考えていますよね」とケアメールの効果を発揮する。

事務局力の七つ道具(4): 付箋ワークセッション の実践
会議の中で、新しいアイデアが必要になったとき、七色の付箋とサインペンを取り出し、ワークセッションを提案する。例えば、課題のリストアップ、今後のアクション項目、改善アイデアなど、皆で出し合うことで効果が出そうな場面を見つけてほしい。通常の1時間の定例会議の中でも、3回くらいはそのチャンスがあるだろう。

【会議の後(after)】=内職プレゼンテーション、あとづけバイオグラフィーの実践

事務局力の七つ道具(5): 内職プレゼンテーション の実践
最初は、会議が終わってから、じっくり1枚プレゼンテーションを作ろう。それをメール送付するところから始めよう。毎回必ず1サマリーチャートを作って、その作成スピードをだんだん上げていく。15分くらいで作れるようになったら、会議の最後に内職で作って、終了間際にプレゼンしてみよう。

事務局力の七つ道具(7): あとづけバイオグラフィー の実践
会議が終わったらその日の内、遅くとも翌日には「議事メモ(速報)」を発信する。速報は事実ベースで出しておき、正式版(バイオグラフィー)には、事務局の視点で整理し直したストーリーを紡ぎ直す。結果、事務局の考える方向性に議論をコントロールすることも可能だ。

これらのことを意識すれば、事務局力を鍛える場は、一日に最低一回、多い人では一日二、三回はあることに気づくだろう。習慣化すれば、簡単なことだ。そうなると、それまですべての機会を見過ごし、無為に過ごしていた自分が恐ろしくなるに違いない。

そして最後の実践として、「事務局力の七つ道具(6): あこがれベンチマーキング」にトライしよう。これは定例会議と関連づけることは難しいので、あなたの属するチーム、あるいはプロジェクトのビジョンや目標を考えるという、半年に一度くらいのチャンスに、思い切って提案しよう。

三ヶ月間、これらの七つ道具を意識して実践すれば、あなたの事務局力は圧倒的に増すに違いない。

事務局力の七つ道具(7): あとづけバイオグラフィー

【応用ツール】

事務局力の七つ道具(7)
あとづけバイオグラフィー

七つ道具の最後の一つは、会議(というかワークセッション)が終わった後の「あとづけ納得ツール」だ。毎回のワークセッションの満足度は、メンバーの積極的な参画度合いで決まると言ったが、プロジェクト全体の満足度は、「つまりこういう意味だったのだ」という納得感のあるプロジェクトレビューに依存する

そこで重要になるのが、プロジェクトのバイオグラフィー、つまり伝記だ。なぜこのプロジェクトが発足し、どういう経緯でメンバーが集められたのか。一人ひとりの個性あるメンバーを紹介し、どう各人が貢献したのか、どこが最も困難なポイントだったのか。あたかも三国志やスターウォーズのように、一人ひとりの魅力ある参加者がどれだけがんばったか、各回のワークショップがどんなエピソードを生んだのか、生き生きと描写し直す

伝記はもちろん、すべてが「あとづけ」だ。だから同じ戦国武将を扱っていても、複数の伝記小説を書くことができるのだ。そこには書き手の解釈が介在するし、誰を主役にするかで、伝記の見え方は変わる。そこに演出はあっても、嘘はない。だからこそ、プロジェクトがどれだけすばらしいものであったか、見事な「あとづけバイオグラフィー」を書き下ろすことに大きな意味がある

長文の作文をしろという意味ではない。現場の写真、ワークセッションで皆が動き回っている写真、実際に参加者が言ったコメント、そのとき書かれたポストイットの写真など、できるだけリアリティを出す。映画のパンフレットを作るような気持ちで。

この「あとづけバイオグラフィー」は、プロジェクトの価値をステークホルダーが理解することを助け、同時に、参加者自身にとっても、その意味を再認識するための最高のツールだ。写真の撮り方、コメントの残し方、バイオグラフィーのデザインなど、好きな映画や雑誌をベンチマーキングして、ぜひ凝りに凝ってほしい。これで、あなたの事務局としての実力が社内中に伝わる。

事務局力が、プロジェクトメンバーからの信頼を高めると同時に、あなたの公式な評価を高める。この好循環が生まれるところをぜひ実感してほしい。

事務局力の七つ道具(6): あこがれベンチマーキング

【応用ツール】

事務局力の七つ道具(6)
あこがれベンチマーキング

どうしたら、異なる価値観を持ったプロジェクトメンバー全員が、一つの方向を信じることができるようになるのだろうか?

組織化論の権威であるカール・ワイク教授は、「センスメーキング・イン・オーガニゼーションズ」の中で、エベレストで遭難しかけたグループが、一人の隊員のポケットに山の地図があったため、それを信じて無事帰還したエピソードを紹介している。この話の落ちは、この地図がまったく違うヒマラヤの地図であったということだ。グループ全員が信じられるものがあると、安心してグループは一つになれる。そうなれば、たとえ情報が誤っていても、よい成果をだすことができるという話だ。もし、このグループのリーダーが、違う地図であることを知っていながら、皆を安心させることに成功していたならばもっとすごい、という議論も紹介されている。

では、「ベストでなくとも、全員が信じられる地図」をどう用意すればいいのだろうか? ビジネス戦略上、もっとも信じられる地図は、「成功事例」だ。他社ですでに成功した事例を見れば、全員で同じゴールイメージを共有できる。たとえその企業の事例が、自社にとってベストのものでなくても構わない。「ゴールを具体的にイメージ共有できている」という安心感が、何より大事なのだ。

だから、訪問先はどこでもよい。ベンチマーキングさせてもらおう。ベンチマーキングとは、実地訪問をして、具体的にどんな「ベストをめざすべきか」、「それをどうやって実現しているか」など、自社と比較調査する活動を言う。同業他社の事例を知りたがる人も多いが、それは必ずしも正しいベンチマーキングではない。同業他社のベンチマーキングをしても、業界の横並びを助長するだけで、決して新しいアイデアを得ることはできないからだ。ゼロックスがL.L.ビーンズの在庫管理をベンチマーキングすることで、大きな収益改善を果たした話はあまりに有名だ。

ここで、ひとつ事務局力を発揮するとよい。ベンチマーキング訪問は、会社対会社の関係になるので、あなた個人の人脈に頼る必要はまったくない。あなたの会社の社長の人脈を使っても良いのだ。できるだけ上位層の人に紹介をしてもらい、あなたの「一度は見てみたい」というようなあこがれの会社に、ベンチマーキング訪問をお願いしよう。うまく行けば、あなたの個人的なあこがれの会社が、自社のゴールイメージになる可能性もあるし、もっとうまく行けば、あこがれの会社とあなたが個人的に太い人脈ができる

プロジェクトの方向性を明らかにし、同時に自分のあこがれの会社とのパイプもできる、一挙両得のベンチマーキングだ。

2009年1月 3日 (土)

事務局力の七つ道具(5): 内職プレゼンテーション

ここからは、応用ツールだ。基本ツールのように意識するだけでは達成できない、ある程度のスキルや積み上げの必要なツールを三つ紹介する。これらの応用ツールは、使えば使うほどうまくなって、効果も上がるし、楽になる。では、最初の応用ツールから行こう。

【応用ツール】

事務局力の七つ道具(5)
内職プレゼンテーション

プレゼンテーションは、事務局が行使できる有力な伝達手段だ。しかし、会議の始めに、あらかじめ作り込んだプレゼンテーションをバシッと決めてはいけない。まったく何も伝わらないからだ。誰も事務局のプレゼンなど、聞きに来てはいない。皆、自分の話をしに来ているだけなのだ。

では、どうすればいいか? 答えは、事務局力の七つ道具(3)の鍋奉行ホワイトボードと同じロジックで、参加者の発言のサマリーとして「あなたの意見」を述べるのだ。つまり、会議の最後に、皆の発言のまとめを一枚のスライドにして、プレゼンテーションするのだ。その時、全員の意見がどう反映しているかを名前を挙げながら、説明するところがポイントだ。

とは言っても、「いったい、いつそのプレゼンテーションは作るのか?」という疑問が浮かぶだろう。だって、鍋奉行はホワイトボードの前で、大忙しだからだ。これは、経験を積んでくると分かるようになる。2時間の会議ならば、最後の30分、1時間の会議なら最後の15分、あなたはそっとホワイトボードから離れて、事務局席でパソコンに向かう。そして、それまでの議論のまとめを作るのだ。

「内職」プレゼンテーションと呼ぶ通り、このときプレゼンテーションを作っていると思われてはいけない。あくまでも、「今ちょっとパソコンさわってます」という程度がよい。作るプレゼンテーションは、たったの一枚。ホワイトボードに貼られたポストイットを活かし、「ここまで皆さんが出された意見をまとめてみました」と、遠慮がちに表示する。このとき、はじめてプロジェクターの電源を入れるのも、演出として効果的だろう。「えー、いつの間に作っていたの?」とびっくりさせるところに、内職プレゼンテーションの成功要因がある。そうすれば、内容そのものの質とか、各参加者にとってベストのサマリーかというところまで、細かいチェックは入らない。(会議の最初に、偉そうに同じ内容でプレゼンしていたならば、評論家的意見にたたきのめされるコトになるだろう!)

事務局力のすべてに共通するポイントは、「期待値を高めずに、満足を与える」というサービス精神だ。ぜひ、すばらしい「サプライズ!」を提供してほしい。

事務局力の七つ道具(4): 付箋ワークセッション

【基本ツール】

事務局力の七つ道具(4)
付箋ワークセッション

「進捗報告型」の会議が退屈で、つまらないものであるということに、異論を挟む人はいないだろう。では、盛り上がる会議とは、どんな会議なのだろうか? そのキーワードは、「会議」というネーミングで呼ばれる場を「ワークセッション」という創造的なコラボレーションの場に変えることだ。

・会議は、決まった人だけが発言する。ワークセッションは、誰もが均等に発言する。
・会議は、偉い順に並んで座る。ワークセッションは、誰もが立って動き回る
・会議は、誰もが腕組みをしている。ワークセッションは、誰もが手を動かしている
・会議は、一人ずつコーヒーが出る。ワークセッションには、飲み物と甘いものが山盛り置いてある。

この雰囲気の違いだけでも、ワクワクしてくるだろう。会議は人が動かないが、とにかくワークセッションでは、参加者があちこち動き回る。不思議なもので、動いた方が参加意識が高まる。その動きの源が、「付箋(ポストイット)」だ。

誰もが付箋(スリーエム社のポストイットがあまりにも有名)は知っていると思うが、普段どんな使い方をしているだろうか。ポストイットを発明した、スリーエムのアートフライさんがその用途に気づいたきっかけ(ニュートンのリンゴにあたる話)が、楽譜にはさんだしおりが何度も落ちるのを見たことであるという逸話がある。アートフライさんも、ポストイットが会議をワークセッションに変えてしまう、本質的な革新を生み出すことになるとは、当時まったく想像がつかなかっただろう。

付箋は、大判のもので、できるだけ多くの色を用意しよう。そして参加者全員の席の前に、太字のサインペンと一緒に、倹約せずに一束ずつ置いておこう。アイデアを書いたら、皆の見えるところに貼ってもらおう。そうすると、皆が書いてくれるし、動いてくれる。この書く、動く、がワークセッションの基本である。

できれば事務局力の証として、七色のポストイットと太字ペンがたくさん入った小箱を作ろう。できれば奮発して、ちょっとかっこいい箱を買ってもいい。これが、事務局の「道具箱(ツールキット)」だ。皆が集まってから、道具箱をおもむろに取り出して、付箋とサインペンをさっそうと配ってもいい。

最初は、なかなか付箋に向かってもらえないこともある。発言があったら、それを事務局がサッと付箋に書いて、ホワイトボードに貼る。次は書いてください、とお願いしながら。黙々とたくさん書き始める人もいる。書き込んだ付箋を山積みしている人がいたら、近づき、付箋を取り上げて、「いいですか?」とホワイトボードに貼ってしまう。「説明してください」と言いながら。とにかく、動きを持たせる、継続して。リズム、リズム、リズム。あいの手も、ばっちり入れよう。鍋奉行を思い出して。

付箋の値段は、結構高い。同じ形のノートの5倍以上の値段がする。だからこそ、「いいものあげるんだぞ」、というくらいの気持ちで配る。付箋の色が豊富だと、たくさん出たアイデアが、華やかに壁を飾る。この満足感は、会議の満足感につながる。付箋への投資を惜しまない!

付箋は、アイデア共創ツールである。事務局力を発揮するために、必ず使いこなそう。

* * *

ここまでに、基本ツール四つを紹介した。
事務局力の七つ道具(1): ケア(care)メール
事務局力の七つ道具(2): アガペー(神の愛)モード
事務局力の七つ道具(3): 鍋奉行ホワイトボード
事務局力の七つ道具(4): 付箋ワークセッション

これら四つのツールは、意識すればすぐにできるものばかりである。メールやホワイトボードは、もちろん今でも使っているツールだし、付箋も文房具屋に行けばどこにでも売っている。アガペーモードは、本当に意識するだけである。まずは、これらを使いこなし、あなたが事務局を務めるプロジェクトに対する、参加者の満足度を高めるのだ。

2009年1月 1日 (木)

事務局力の七つ道具(3): 鍋奉行ホワイトボード

あけましておめでとうございます。

昨年最後の書き込みは、少しスピリチュアルな気持ちになっていただく、「アガペー(神の愛)」というメタファーだったのですが、新年最初の書き込みは、新年会を意識するわけではありませんが、「鍋」がメタファーです。

【基本ツール】

事務局力の七つ道具(3)
鍋奉行ホワイトボード

事務局力は、会議室のセッティングにもこだわる。ホワイトボードがあるか、どのくらいの大きさか、どこにホワイトボードが置かれているか、事前チェックが基本だ。たかがホワイトボード、今はITの時代だろう、などと侮ってはならない。ホワイトボードは、最高の議論のナビゲーション・ツールだ。くだらない話に見えるが、ホワイトボードの大きさが、アイデアの広がりに比例する。

議事録が意見を誘導できることは前述したが、ホワイトボードは、リアルタイムで場を誘導する。ホワイトボードのマーカーを持った人が、「鍋奉行(なべぶぎょう)」である。鍋奉行とはもちろん、鍋を囲むときに「肉はまだまだ」とか仕切る人のことだ。ホワイトボードの前に立とう。数色のマーカーを持って。そして、あらゆる意見を書き取る姿勢を示す。発言には大きく頷き、「○○ということですね」とコメントしながら書き取る。書き取られるのは、誰でもうれしい。誰だって、聞いてくれている人に向かって話したい。約束しよう。ほぼ全員が、あなたに向かって話をするようになる。そうなったら、声を出して相づちを打とう。

あなたが会議という鍋を仕切っている状態になったら、「あなたの板書するものが大事な意見」であり、「あなたが描くチャートが議論の結論」と見なされる可能性がきわめて高いと考えるべきだ。ただし、注意が必要だ。参加者全員が、あなたの鍋の仕切りに満足するよう、テクニックを発揮しなければならない。

そのポイントは、どれだけ豊富なフレームワークを使いこなせるかだ。よくあるパターンとして、出た意見をホワイトボードの左上から順に書いていく人がいるが、これは「あとで議事録を作るのが面倒」という行為に見えるので、オススメできない。 議論の構造を、ホワイトボードいっぱい使って示すことが大事だ。たとえば、次のようなやり方だ。もちろん、アジェンダであらかじめ提示している期待アウトプットにあわせてフレームワークを描く必要がある。押しつけがましくなく、スマートに。

- 時間軸。ホワイトボードの左端から右端まで、一本の矢印をひいて、「過去、現在、1年後、3年後以降」といった時間軸を打つ。その時間軸に応じて意見を記入していく。
- プロセス。業務プロセスの流れを左から順に記入していく。「企画、開発、生産、営業」といった形で。そのバリューチェインに合わせて、挙がった意見を記入していく。
- マトリクス。生産性と創造性、緊急性と重要性のような、矛盾を起こしがちな概念をX軸とY軸にとって、4つのエリアに分ける。出てくる意見をそこに記入していく。

全員が一緒になって議論を完成させているんだ、という気持ちにさせなければならない。ここまで来れば、ご理解いただけたに違いない。ホワイトボードは、全員の正面になければならないことを。ホワイトボードの大きさが、アイデアの広がりと比例することを。鍋奉行として、立ち位置とツールには、徹底的にこだわらなければならない。

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