2013年1月 6日 (日)

ソーシャルイノベーションの時代を迎えた

ソーシャルイノベーションを再考する必要がある

「ソーシャルイノベーション」ほど、わかりにくい概念はない。「ソーシャル」はきわめて多義性のある言葉であり、さらに「イノベーション」の定義は、絶望的なほど、人によって理解がばらばらになる。これらを組み合わせた言葉だけに、どうしようもない。しかし、今の時代の日本にとって、「ソーシャルイノベーションほど重要な概念もない」ということをここでは強調したい。

この冬、ソーシャルイノベーションの最先端を探るために、私たちは英国に渡った。この日英のソーシャルイノベーションの橋渡し役は、ブリティッシュカウンシル。英国側のパートナーは、CSR(企業の社会的責任)の基礎となる「トリプル・ボトムライン」の提唱者、ジョン・エルキントンの創設したVolans(ヴォランズ)である。

このソーシャルイノベーションをとりまく国際交流は2012年1月に始まったものだが、2012年12月の第2回の国際交流では、社会全体がビジネスを包含して、とてつもない速さで「ソーシャルイノベーションの時代」に突入しているという、大きな時代の潮流を感じるものとなった。この流れは、あらゆるセクターを巻き込んで進んで行くであろう。

ソーシャルイノベーションの一般的な定義は、一言で言ってしまえば、「社会問題の解決のためのイノベーション」である。

“A novel solution to a social (or environmental) problem that is more effective, efficient, sustainable, or just than existing solutions, and for which the value created accrues primarily to society as a whole rather than private individuals.”

“Rediscovering social innovation”, Stanford Social Innovation Review, Fall 2008

しかし、今回の国際交流で明らかになったことは、この「社会問題の解決」に焦点を当てた定義が、私たちの目を曇らせてしまっていたのではないか、ということである。

日本企業で、「ソーシャルイノベーションへの挑戦」を持ち出すと、「ビジネスドメインではないイノベーションになぜ企業が取り組むのか」という疑問に答えなければならなかった。つまり、「ソーシャルイノベーションは政府やNPOの仕事」と捉えた議論になっていたのである。

そこに新たな切り口を与えたのが、マイケル・ポーター教授のCSV(Creating Shared Value)ではあるが、今回の国際交流で、ジョン・エルキントン博士は「マイケル・ポーターのCSVをゴールとする考え方は危険」と懸念を示した。企業と他セクターとの間で、部分最適のWin-Win関係を作り上げることが重要と、そこだけを強調してしまうことが、本質的なソーシャルイノベーションの時代を見誤らせてしまう可能性があるからだ。

ソーシャルイノベーションは、社会システム変革

結論から言えば、「ソーシャルイノベーションは、社会に必要なシステム変革」である。人口構造の変化、エネルギー事情や環境変動、技術の進化、価値観の多様化などにより、現行の社会システムが制度疲労を起こしているのだ。このような社会システムを根本的に革新し、新たな社会システムへの進化を促していかなければならない。それが、ソーシャルイノベーションの目的なのである。社会システムの変化をドライブするには、新商品を出すだけではもちろん十分ではない。逆に、革新的な商品やサービスであればあるほど、そこにシステム変革が伴わなければ、市場に受け容れられないだろう。新しい商品・サービスが生まれ、そこに市場が形成され、制度や政策がそれを後押しし、最終的には人々の慣習が変わらなければ、システム変革は起きない

ソーシャルイノベーションに専門的に取り組む研究組織、NESTA(ネスタ)のフレームワークは、その特性を見事に言い当てている。

"社会イノベーションは、システム変革。システム変革が起きるには、4つのイノベーションが同時に起きなければならない。(1)製品・プロダクトのイノベーション、(2)市場のイノベーション、(3)政策のイノベーション、(4)慣習のイノベーション"

「ソーシャルイノベーションは、社会に必要なシステム変革」と捉え直した時、企業にとって、行政にとって、NPOにとって、どのようにイノベーションに取り組めばよいのだろうか。その第一歩は、「ソーシャルイノベーションは、自分たちだけでは起こし得ないイノベーションだ」ということをまず理解することである。つまり私たちの選択オプションは二つに一つ、社会システムが変わってから急いで対応するか、他セクターに働きかけてソーシャルイノベーションを先導するかのどちらかになる。

この前提に立つと、従来のイノベーション戦略の誤りが浮かび上がる。既存のやり方で、新たな商品・サービスを生み出そうとした場合、現行の社会システムにあった改善レベルの商品・サービスしか、成功し得ないことになる。次世代に向けた商品・サービスを生み出したとしても、「市場に出すのが早すぎた」という言葉とともに消えて行く。ソーシャルイノベーションを起こして、社会システムを変革するには、企業は政策や慣習のイノベーションにもっと強い関心を持つ必要がある

ソーシャルイノベーションへの旅

このことをもっと深く理解し、行動を起こせるレベルにまで腑に落ちるためには、私たちの旅を一緒に一つずつたどってもらう必要があるだろう。ソーシャルイノベーションへの旅は、トリプル・ボトムライン提唱者のジョン・エルキントン博士から、ビッグピクチャを学ぶところから始まる。続いてVolans(ヴォランズ)のコンサルタントから、英国でのソーシャルイノベーション基盤としての金融システムの先進事例を学ぶ。

そしてこの旅は、オックスフォード大学の高齢社会イノベーション・プロジェクトへと進む。ここでは、人口構成変化をイノベーションの機会と捉え、社会科学、ビジネス、IT、そしてデザイン思考の融合領域での研究が始まったところだ。

続いて、NESTA(ネスタ)、We Are What We Do、Participle(パーティシプル)、UnLtd(アンリミテッド)といった、ソーシャルイノベーションを専門に手がけるNPOへと旅は進む。これら非営利の団体が、ソーシャルイノベーションの最先端を走っており、新しいビジネスアイデアに溢れていることに驚かされる。

第2章は、日英合同で行われたフューチャーセッションのドキュメンタリーになる。日本からの参加者は、自動車産業、IT産業、日用品産業、教育産業など、非常にイノベーティブな文化を持つ企業から、さらにNPO中間支援団体やCSRコンサルティング企業なども含め、幅広く多様な顔ぶれであった。この旅は、各企業の変革リーダーたちにとっても、目から鱗が何枚も落ちる共体験になった。彼ら彼女らにとっては、ソーシャルイノベーション時代の新たなパラダイムに合った戦略再構築が、帰国後の急務の課題となった。一社ではソーシャルイノベーションは起こせない。そうなると、産業を超えて手を結び、行政やNPOとも連携し、大きな変化を仕掛けて行く必要がある。ソーシャルイノベーションの動きは、いま、日本の中でも始まろうとしている。

2013年、ソーシャルイノベーションの時代が、本格到来する。

UK Innovation Journey Report
ソーシャルイノベーションの時代
目次:

Foreword: ソーシャルイノベーションの時代を迎えた

Chapter 1: ソーシャルイノベーションへの旅:

  1. John Elkington(ジョン・エルキントン)
  2. Volans(ヴォランズ)
  3. オックスフォード大学 GOTOプロジェクト
  4. VitaminsDesign(ヴィタミンズ)
  5. NESTA(ネスタ)
  6. We Are What We Do (WAWWD)
  7. Participle(パーティシプル)
  8. UnLtd(アンリミテッド)

Chapter 2: インターナショナル・フューチャーセッション
  1. The Innovation Space(ザ・イノベーションスペース)
  2. Future Session (1): ソーシャルイノベーションと企業の未来
  3. Future Session (2): 高齢社会のソーシャルイノベーション・シナリオ

Afterword: 高齢社会のソーシャルイノベーションを先導するために

※UK Innovation Journey Reportが、本ブログにどこまで掲載可能か、現段階では明確にできておりません。いずれにしても、ブリティッシュカウンシルFuturesプロジェクトからレポートが発行されますので、関心をお持ち頂いた方は、あわせてチェックお願いいたします。

by Takahiko Nomura

2012年8月26日 (日)

働き方の未来を考えるフューチャーセッション

さきほど、「働き方の未来を考えるフューチャーセッション」を青山ブックセンター本店で開催してきました。

まだ興奮覚めやらない感じです。80席用意した椅子がすべて埋まり、ペアインタビュー、4人での対話が始まると、もうマイクを使っても声が届かないような盛り上がりっぷりでした。青山ブックセンターさんも、たいていのセミナーは講師が一方的に話し、参加者は黙って聞いて帰ることが多いので、とっても新鮮だったとおっしゃっていました。フューチャーセッションで表面に浮かび上がってくる、日本人の潜在的パワー(一緒に話したい、変えたい、行動したい)があれば、何でも変えられるのではないか、と思います。

今回のテーマは、『ワーク・シフト 仕事の未来図〈2025〉』(プレジデント社)を読んだうえで、「私たち自身の働き方の未来を考える」ということでした。

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ワークシフトの著者がもっとも伝えたかったことは、「未来は、現在の延長線上にはない」ということだと思います。世界的な働き方の変化にまつわるトレンドを理解することは重要ですが、トレンドに振り回されるのではなく、「未来を選ぶのは、自らの意志である」ということを深く理解することが大切だと語っています。

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ワークシフトでも使われている、「シナリオプランニング」という方法論では、複数の未来シナリオが示されますが、そこからどれかひとつを選ぶのではなく、これら複数のシナリオすべてが起こり得ると考えるところが肝です。それらすべてに備えるには何に取り組めば良いのか、ということを考えるきっかけにするのです。

登壇ゲストにお招きしたのが、日本仕事百貨の中村健太さん。「生きるように働く人」の求人サイト「東京仕事百貨(現 日本仕事百貨)」を運営しています。最初の彼のトークで出た、「生きるように働く」は会全体の大きな方向性を生み出しました。中村さん、考え方も、話し方も、とっても素敵でした。

フューチャーセッションと「ワークシフト」は、多くの接点があります。ひとつは、フューチャーセッション自体が、未来シナリオを生み出す場であること。フューチャーセッションのアウトプット自体が、「ワークシフト」のような世界観を描くことになります。そしてもうひとつが、フューチャーセッションは、人とつながって変化を起こす場であるということです。「ワークシフト」の世界観をそのまま実践できる場こそ、フューチャーセッションであるという意味になります。

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たった2時間の短い時間でしたが、フューチャーセッションの原則(「フューチャーセンターをつくろう」より)を守り、ゆったりとした場をつくりあげることができました。

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今回のフューチャーセッションのアウトプットは、「解決策のアイデア」ではなく、「問い」にすることをこだわりました。なぜなら、「問い」には、異なる立場の人が一緒に考え、行動することを促すチカラがあるからです。

「私たちの働き方の未来」を実現するために考えねばならない、「大切な問い」は何か?

このテーマで80人以上の参加者が、それぞれ4人チームになって生み出した「問い」をご堪能ください。

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何かに依存しすぎず、自分のビジョンをもってまわりから尊敬され、尊敬し合えるには?
続けたいのか、始めたいのか?
人はなぜ、走り続けるのか?
会社と個人、個人と個人の間の取り方をどのようにしていくのか?
会社や組織の中で、隣の席の人とどうしたら楽しいを共感できるか?
自律的に自由な発想を創り出せる場所を、どうやったら創り出せるか?
「自分」が決めた枠をいかにとっぱらえるか?
社会はもう不安定だ。その中で、新しいことや好きな仕事に挑戦しつづけていくには?
東京、首都圏に情報や仕事が集中しているのではないか?
どうすれば、第二第三の自分の名刺が持てるか?
みんなで楽しく自分らしく、豊かに生きて行くにはどうしたらいいか?
自分のやりたい仕事をつくるために必要な、新しい価値観の見つけ方は?
みんなそれぞれなりたい自分があるが、それぞれ違う目的に近づくために、いかに周囲との絆を強くして行けるか?
直感に従って、ワクワク生きて行ける人を増やす、社会的仕組みは何か?
パラダイムシフトが大事。週休二日から週休五日にシフトするには?
障害を持っていても、未経験者でも、誰もが生き生きと働ける社会を実現するには?
今本当にやりたいことをしている?
自分の魅力と仕事の魅力を見出して、つなげるにはどうしたらいいか?
どのようにしたら、閉ざされた世界から個人が飛び出し、新しい枠組みで活躍できる世界がつくれるか?
多様な働き方を実現できる社会をつくるにはどうしたらいいのか?
自分が大切にしたい軸を見つけるには、どうしたらいいか?

さぁ、あなた自身に向けて発し続けたい「問い」は、見つかったでしょうか。もしひとつでも共感できる問いがありましたら、「働き方の未来を考えるフューチャーセッション」のFacebookグループにご参加ください。

このテーマでこれからもセッションを続けて行きますので、よろしくお願いします。

野村恭彦

2012年7月 7日 (土)

新しい働き方の「塊」を生み出す

ほとんどの企業の働き方は、この20年、基本的に変わっていません。

1. 組織人ワークスタイル

メールとPCが仕事の中心になったものの、社員の管理や意思決定のプロセスは、紙と電話で仕事をしていたときと変わりません。朝は会社に出勤し、窓際に座る上司に報告・連絡・相談し、いつもの食堂でご飯を食べて、午後になるとお得意先のオフィスに訪問します。会社に戻ると、外出中に入った電話のメモがあります。やおらPCを立ち上げて、メールと事務処理をします。

チームメンバーと打合せをしようとして日程をすりあわせようとしても、皆の日程がなかなか合わず、ミーティングは翌週になってしまいます。メールを出しても、なかなか返信はありません。

2. 自由人ワークスタイル

誰もが知っているとおり、スマートフォンとPCがあれば、会社もオフィスも食堂も要りません。

朝7時、食事が終わるとすぐに、音楽を聴きながらメールです。今日中に動いてほしいプロジェクトメンバーへの連絡、顧客へのアポイント確認など、たくさんのメールを出します。他人を動かすメールは、9時より前に出しておきます。一通りメールが終わると、10時に渋谷のコワーキングでプロジェクトメンバーと打合せです。1ヶ月後のイベントに向けてのアイデア出しで、その場でパソコンを開いて、イベントの設計をしてしまいます。ランチは、広告代理店とのビジネスミーティングです。ミーティングが終わるとスマートフォンで、提案中の顧客からの連絡に即座に返信、来週の役員提案の日程と概要が決まります。

だいたいこのあたりで、組織人ワークスタイルの人が1日かけて行う仕事はすんでしまうでしょう。まだ午後1時です。このあとも、13:00-15:00、15:00-17:00と、二つの全く異なるミーティングをこなします。ここまでで2倍、さらに夜の有効活用で3倍、週末の過ごし方も仕事のネットワーキングが広がり、結果として5倍くらいのスピード感で仕事が進みます。

組織人ワークスタイルが、「役割を果たすために働く」のに対して、自由人ワークスタイルは、「自分が楽しいことを仕事にする」のです。ですから、忙しそうに見えても、楽しく、まるで遊んでいるのか、仕事をしているのか、見分けがつかない毎日を過ごしています。人と会うのも、組織人ワークスタイルでは、緊張感ある交渉ごとのようですが、自由人ワークスタイルでは、親友と食事に行くような感じになります。

3. 働き方のパターン

下図に、働き方のパターンを2軸で4つに分けたものを示したいと思います。

Workstyles002

横軸は、「組織人」か「自由人」かです。自由人は、起業家やフリーランス、組織人は会社員が中心と考えてください。

縦軸は、「身の丈コース」か「一人ではできないことコース」です。これはSVP東京創業者の井上英之さんとのフューチャーセッション「社会起業家精神の未来」で得たアイデアです。一人ではできないことコースを歩む人は、自分だけではできないような大きなビジョンを掲げ、「自分だけではできないけど、誰か一緒にやってください!」と周囲に働きかけます。一人ひとりができることは高が知れていますので、こういう人がいないと、大きな社会インパクトは生まれません。

右上の「組織人」×「一人ではできないことコース」は、大きなプロジェクトを推進する組織人です。人数的には少なくなりますが、もちろんここは面白い仕事です。問題は、このエリアで働く人たちの生産性が低いことです。内向きの会議、それに向けた大量の資料作成、やる気のない部門への説得など、一つの企画を実現するために、社内で費やす労力は半端ではありません。

彼ら組織人イノベーターが、自由人イノベーターである起業家たちと同じ土俵で知的競争を戦うのは、ハンディが大きすぎます。以前であれば、組織人にしか使えない資産がありましたが、今は組織人も自由人も使えるツールはほとんど同じです。

4. 新しい働き方をする人たちの「塊」

最近のトレンドは、組織人イノベーターが、自由人イノベーターとタッグを組むワークスタイルです。組織人イノベーターは、面倒な社内手続きをパスするために、そこを自由人イノベーターに委託します。自由人イノベーターは得意な領域を組織人の5倍のスピードで進め、組織人の持つリソースや信頼を活用して、そのアイデアを全国・世界へと広げます。

つまり、「自由人ワークスタイルの組織人」や「組織のリソースを活用する自由人」が渾然一体となった、「ハイブリッド・ワークスタイル」が生まれ始めているのです。

自由人と組織人のハイブリッドな働き方をする人が増えてきています。ですが、企業は見て見ぬ振りをしています。このようなワークスタイルを公に認めてしまうと、まじめに組織人として働いている人たちがクーデターを起こすのではないかと心配しているからです。

しかし、確実に新しい働き方をする人たちは増えてきています。次のような人たちが増えてきていますし、こういう人たちが会社の未来をつくると期待されています。
・企業の持つ課題を外に持ち出して、スピーディに問題解決する組織人
・NPOと一緒に活動しながら、自社のイノベーションのヒントを得ようとする組織人
・自社の業界とは無関係に、様々なオープンイノベーションの場に参加する組織人

このようなハイブリッド・ワークスタイルが、無視できない人数になってきていると思います。さらに企業側から見ても、イノベーションを促進していかなければ生きていけませんので、このようなワークスタイルを応援する必要があります。

今この時点で私の持っている「問い」は、ハイブリッド・ワークスタイルが、「団塊の世代」のように、ある一定の「塊」になったとき、彼ら彼女らの求めるライフスタイル、ワークスタイルに対して、どんな商品やサービスが提供されるようになるのだろうか、ということにあります。どうしたらこういう人を増やせるかではなく、増えてしまったとしたら、この社会はどう変わるだろうか、ということを今から考えておく必要があると思います。

あなたも考えてみてください。

ハイブリッド・ワークスタイルの人の割合が30%くらいを占める、未来の社会像を。

あなたは、そういう生き方をしたいですか? ものすごい数の人たちがそのようなスタイルに変わった時、この社会の構図やシステムは、どう変わっているでしょうか?

想像すると、わくわくしますね。

2012年7月 3日 (火)

新しい働き方が生まれる「トレンド」と「兆し」

1. 私自身の「新しい働き方」

日曜日に「働き方の未来」を考えることを宣言して、月曜日の朝にはfacebookでたくさんのフィードバックをいただきました。「フューチャーセッションやるなら、一緒にやろうよ」という申し出もいただきました。ありがとうございました。

そして、濃密な対話をたくさんの人と行いました。コクヨの齋藤敦子さん、乃村工藝社で「未来の場づくり」を考えている方々、エコノミスト誌の記者さん、ミラツク代表の西村さん、そして慶應SFCの井上英之さん。なんてぜいたくな一日でしょうか。この日は、私にとって特別な日ではなく、このほかにも別のミーティングもありましたし、西村さんと井上さんとお会いしたのは偶然でした。

こんなことが日常なのです。会う人、会う人と、「日本をこうしていきたい」と夢を語り合い、その場で仕掛けを構想し、周囲を巻き込んでいきます。このスピード感が、私自身の実感する「新しい働き方」です。

でも、「働き方の未来」が重要になってくるという根拠は、そんな個人的な話だけではありません。


2. マクロなトレンド

ラッキーにも、午前中からこのテーマで、コクヨのWORKSIGHT編集人である齋藤さんと対話することができました。彼女とは、日本企業の置かれているマクロなトレンドから、「働き方がどう変わらざるを得ないか」という議論を行いました。

日本の大企業は、製造業もシステムインテグレーション企業も、生き残っていくにはアジアに仕事を移していくしかありません。

一つは、人件費です。某自動車メーカーのナレッジマネジメントの仕事は、数年前まではベテランの暗黙知をデータベース化することでしたが、今は日本人の持つ知識をインド人にどう分かりやすく伝えるか、になっています。グローバルなナレッジマネジメントの行く末にあるのは、「日本にはオペレーショナルな仕事は残らない」という結果です。つまり、コアの技術者、企画戦略系スタッフをのぞいて、多くの日本人社員の仕事がなくなるのです。

もう一つは、市場の縮小です。日本は人口が右肩下がりですから、市場としての魅力がなくなっていきます。現地設計・生産・消費を徹底していくと、日本の大企業は、日本の企業というイメージを捨てて、グローバル企業として生き残っていくことになります。

日本の大企業は、このようなトレンドを押し進めながら、社員に対しては「日本には創造的な仕事が残る」とだけ言って、「多くの人の仕事がなくなる」ことをはっきりと伝えていません。社員も、「自分の仕事は残る」と無根拠に信じているのが現状です。

日本を大企業に任せておくと、中間層の仕事が、ぼこっとなくなります。どこかの企業のリストラが容認されれば、たくさんの企業が追随し、残るのは「一部の高給取りスタッフ」と「海外並みの給与で働くスタッフ」だけになるかもしれません。起きてほしくありませんが、起きたとしてもまったく驚くシナリオではありません。


3. ミクロな兆し

その一方で、明るい兆しもたくさん見えてきています。コクヨも、ヒカリエにMOVという「異文化・異分野が出会うための場」を作っていますし、特に渋谷には、co-baをはじめとし、たくさんのコワーキングスペースが根付いてきています。フューチャーセンターも同様ですが、どの場も、「まずつながって、そこから価値を生み出す」ことを促進するためのプラットフォームとして機能しています。

今のところ大企業から見たこのコワーキングの動きは、「フリーランスの間に起きている流行で、大企業には関係がない」と映っていると思います。しかし、私にはそうは見えません。彼ら彼女らのコラボレーションのスピードは、とんでもないスピードで、まさにプロジェクト型、オープンイノベーション型の仕事のあり方を実践しています。企業で1ヶ月かけて検討する企画が、こういう場では、1日でプロトタイプできてしまうのを実感します。

私は、このように「組織の役割に閉じない働き方」を実践する人がますます増えていき、結果として「グローバル企業がリストラする中間層」と同じ規模感で、「ローカルな価値を生み出す自由ワーカー」という大きな集団を作り上げるのではないかと思い始めています。

そして齋藤さんとは、これからの2年間、マクロなトレンドを収集・整理すると同時に、ミクロな兆しをしっかりと取材し、それらを集めた「働き方の未来」フューチャーセッションを開催していくことを話し合いました。


4. 地域活性化と働き方

働き方の変化は、企業だけの問題ではありません。

乃村工藝社とは、地域活性化についての議論をしました。人口が減少していく中、地域の経済を立て直すためには、既存の縦割り発想を超えた、「面で価値を生み出す」プロデューサーが必要になります。たとえば、一つの文化施設や商業施設を作るにしても、既存の商店街の価値も一緒に高めるような運動を仕掛けるなど、地域全体の価値を高めていくセンスが必要になります。

このような仕事は、東京のゼネコンやシンクタンクには、なかなか難しいでしょう。何より、この努力が短期的には報われないからです。いきおい、このような「地域の価値を高める」仕事を担うのは、地元を深く理解している「ローカルな価値を生み出す自由ワーカー」になるのです。彼ら彼女らの仕事は、マス市場を相手にするものではありませんので、プロジェクト規模は小さくなります。しかし、創造性の発揮度合いはとても大きなものになります。社会起業家精神に満ちあふれた創造的な仕事が、地方にたくさん生まれると言っていいでしょう。

フューチャーセッションズでは、企業(ビジネスセクター)、行政・地域(パブリックセクター)、NPO(ソーシャルセクター)を横断した、あらゆるフューチャーセッションを提供しようとしています。企業の課題を社会起業家が一緒に考え、社会をよりよくする商品を一緒に生み出すこともあるでしょう。地域の問題を企業が一緒になって解決する、ということもあるでしょう。子育てしながら働く環境づくりなどの社会的課題を企業と行政が一緒になって達成する、ということもあるでしょう。今必要なことは、人材も、プロジェクトも、セクターを超えてつながって行動することなのです。

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5. これからの日本社会を担うリーダー、フォロワー

井上さんとは、「社会をこうしたいというビジョンを掲げ、それに向かって仕事をすることを喜びと思う」リーダーをどう増やしていくか、という話をしました。一昨日のTEDxTokyoでお会いして一緒にお話しした、英治出版の原田英治さんは、「フォロワーシップがもっと注目されるべき」と語っていました。

リーダーもフォロワーも大事、という議論としてもいいのですが、私から見ると、このお二人の言っている人物像は、リーダーとフォロワーという異なる言葉を使いながら、ほぼ同じことを言わんとしているのではないかと思いました。井上さんの語るリーダーは、必ずしも起業家のような本来のリーダーだけではなく、例えば会社の新入社員であっても、「私はこんな仕事がしたくてこの会社に入りました」と旗を立てることができるということだと思います。もしその人の想いが、会社のビジョンと沿っているならば、この人は究極のフォロワーシップの発揮者になることでしょう。

つまり、これからの「働き方の未来」に対するヒントとして、「リーダーでありフォロワーでもある働き方」が重要になってくる、ということが言えるのではないでしょうか。

このような「新しい働き方」をする人が、確実に増えていくでしょう。それは、グローバルな外因的トレンドによって加速されるからです。また、日本の地域が求める、内発的な欲求によっても加速されていくでしょう。

私たち一人ひとりにとっては、「今の働き方にとどまる」か、「新しい働き方に移る」かが、チョイスになるでしょう。今から、「新しい働き方」を自分のワークライフの中に、試しに取り入れてみてはいかがでしょうか。

まずその第一歩として、フューチャーセッションに参加するのもいいですね。ぜひ。

2012年7月 1日 (日)

2012年、「働き方の未来」を考えてみたいと思います

1. 自由な働き方を愛して

2012年6月。20年間お世話になった大好きな富士ゼロックスを離れ、株式会社フューチャーセッションズという会社を立ち上げました。2000年にKDI(Knowledge Dynamics Initiative)を自ら立ち上げて12年間、日本の知識創造型経営の実現に向けて突っ走ってきました。

20年前、私が富士ゼロックスを選んだのは、当時日本では、NTTと並んで、「好きなことをやらせてくれる研究所」を持っていたからです。NTTは電話、ゼロックスはコピーで稼いだ資金をふんだんに持ち、将来の新たな稼ぎ頭を生み出すために研究投資をしていました。

富士ゼロックスに入り、グループウェアや組織知活用のためのシステムなど、好きな研究を思いっきり楽しみました。そしてある日、「世界で活躍できる、真の研究者求む!」という社内公募の書類を同僚が見つけてきました。「これ、君、いいんじゃない?」って。

1998年に今のKDIの前身の、コーポレート部門のKDIに公募で移りました。それからは、海外出張と役員サポートがメインの仕事になり、経営理論の世界で、面白いものがないか?と、いつもアンテナを張っていました。面白いものがあると、ぽーんと海外にも飛んでいきました。そして2000年に、知識サービス事業「KDI」を新事業として立ち上げました。

それからは、もっと自由になりました。

プロジェクトで売り上げを立てれるならば、世界中の、どんな社外パートナーとでも組むことができました。最大の贅沢は、IDEO(アイディオ)と一緒にたくさんのプロジェクトを行ったことです。最初は、IDEOの東京スタジオと共同で事業を行いました。次に、IDEOのベイエリア本社と一緒に、クライアント企業に対するイノベーションプロセスのコンサルティングと、富士ゼロックスの新事業コンセプトを発想するプロジェクトを行いました。

そして2009年頃からでしょうか、フューチャーセンターの活動に本腰を入れるようになりました。欧州のフューチャーセンター・アライアンスを訪問したり、東京でフューチャーセンター・アライアンス・サミットというイベントを開催したり、さらに一緒にクライアントのプロジェクトを実行したりもしました。

これほど楽しい仕事はありませんでした。私がKDIを離れるなんて、まったくもったいないことだと、私も、皆さんも、思うでしょう。


2. 独立の二つの理由

私が独立を決心した一つ目の理由は、「社会の要請」です。社会イノベーションが、理論ではなく現実に求められる時代になったということです。しかし、2011年の東日本大震災が、私の考え方を一変させました。新会社を立ち上げた目的は、「企業だけではカバーできない、行政、NPOを横断する領域での社会イノベーションを促進するプラットフォームが必要である。それを自分がやらなければならない」と考えたからです。

独立のもう一つの理由は、「個人の要請」です。下図は、これまでに私が出した、著書あるいは監修書を時系列に並べたものです。

Mybooks

コミュニティづくり、組織変革、ファシリテーター育成、創造的な会議の方法論、フューチャーセンターと、一貫して、組織内の個の力を拡大するための経営理論を作り上げようとしてきた、と言えるでしょう。ところが震災後、「組織内の個」の求めるものが、大きく変わり始めました。「会社をよりよくする個」から、「社会に立ち向かう個」に、私が支援したい「個」がシフトしてきたのです。そして私は、組織を飛び出して社会に立ち向かう個を支援するために、フューチャーセンターのネットワークをつくろうと決心したのです。


3. 社会イノベーションから、再び「働き方」へ

フューチャーセンターは、多様なステークホルダーが集まり、対話と協業の方法論をファシリテーターが駆使し、結果として協調的アクションにより複雑な問題を解決しようとするものです。

私は、このフューチャーセンターを使って、セクター横断の新産業創出などの社会イノベーションを仕掛けようと新会社を立ち上げました。そして、地域活性化の推進、社会的企業の実現、社会問題の解決など、様々なテーマで、「フューチャーセッション」の仕掛けをつくり始めました。

そこに、ふと振り返るきっかけが舞い込んできたのです。

そのきっかけは、神田昌典氏が与えてくれました。彼から、対談の申し出があったのです。神田さんの「2022ーこれから10年、活躍できる人の条件」と、彼の監修したセス・ゴーディン氏の「Work 3.0」を読んで、確かにこれは、同じ方向を指し示している、と感じました。

私がKDIを始めたときに、組織の「働き方を変える」ことをめざしていました。「働き方を変えるのは何のため?」ということを突き詰めていって、「イノベーション」を起こすためだと考えました。さらに、「イノベーションは何のため?」を突き詰め、企業が事業を通して「社会イノベーション」を起こせる社会づくりというところにたどり着きました。

そして今再び、「社会イノベーションが企業の仕事になったとき、働き方はどう変わるのか?」という問いに戻ってきたのです。

私は、社会を「つながりと創造性」をベースとしたものに、変えていきたいと思っています。そのとき、働き方はどう変わるのか?ということを同時に考えていくべき、と気づきました。

「働き方の未来」を考えていきます。このテーマで、フューチャーセッションも開いていきます。

そして、一緒に働き方を変えていきましょう。

野村 恭彦 (Takahiko Nomura)
株式会社フューチャーセッションズ 代表取締役社長

2009年10月24日 (土)

事務局力!――いよいよ発売されました。「裏方ほどおいしい仕事はない!」

事務局力をまとめた本が、

「裏方ほどおいしい仕事はない!」

というタイトルで、10月19日に発売されました。

Urakata

公式BLOGも、新・公式BLOG「裏方ほど!」に移行しましたので、よろしくお願いいたします。

2009年5月29日 (金)

「イノベーション行動科学」のWebサイトを立ち上げました

BLOG移転のお知らせ。

「野村恭彦 公式BLOG」として運用してまいりましたが、国際大学GLOCOM(グローバルコミュニケーションセンター)で、「イノベーション行動科学」のサイトを立ち上げることになりました。今後は、そちらにBLOGも書いていくことになりますので、よろしくお願いいたします。

http://www.innovation-glocom.jp/

どうぞ、よろしくお願いいたします。

野村

2009年5月 9日 (土)

「事務局力」で奇跡を起こす

私が「事務局力」について書いてみたかった最大の理由は、「誰もが社会を変えるキーパーソンになり得る」ということを伝えたいと思ったからだ。

事務局力は、仕事ができる人になるためのハウツーではなく、あなたの気づきや小さな一歩を大きな変化につなげるための作法

日本のサラリーマンは、与えられた仕事を懸命にこなし、自発的に改善活動にも勤しむ。だが、社会が大きな変化を起こしているときに、なぜかまったく気づかない人が多い。新聞に書いてある、雑誌でもテレビでも、問題だ、問題だと連呼されていて、目には入っていることでも、会社に行ってデスクに座ると、いつもの日常がそこにはある。ニュースもドラマも一緒だ、自分には関係ない。自分には、与えられた役割、仕事がある

そんな人がいっぱいいて、この社会はハッピーなのだろうか?そういう人生が好きな人なら、それでもいい。だけど、自分が会社を変えるんだ、社会を変えるんだ、少しでも役立ちたいんだ、と目を輝かせる表情を誰もが持っているに違いない。

こういう気持ちを発露させる場が、日本の企業の中にはあまりに不足している。まじめにパソコンに向かって残業しているのがいいことだ、できもしない夢なんか持つな、という暗黙のメッセージが会社の中にはあまりに多すぎる。これは、私自身のコンサルティング経験からくる実感だ。未だに、多くの企業では、「何がしたいか」という質問は、「どこの部門のどの役割につきたいか」を意味する。だが、それだけでは会社はつぶれてしまうよ。企業は、社員がアイデアを出し、人やお金を投入して新しい価値を生み出し、それが社会に広がっていくことで、持続的に事業活動を続けている場だ。きわめてダイナミックな主体なのだ。サラリーマンは、もう求められていないんだ

求む、発想の転換。会社は、自分のやりたいことを実現するための場だ。「誰もが自分のやりたいことをやったら、会社はばらばらになってしまうのでは?」なんて質問が聞こえてきそうだ。だから、事務局力が必要なのだ。自分がやりたいことをチームがやりたいことにする、それを部門がやりたいことにする、そして会社がやりたいことにする。同時に、会社がやりたいこと、部門がやりたいこと、チームがやりたいことから、自分がやりたいことは影響を受けるだろう。事務局力の実践は、つねにオープンなマインドで、周囲に働きかけ、協力関係をつくりながら、自己実現=社会実現を探求し続ける、そういう生き方(being)にほかならない

それは、すごく美しい生き方だと思う。

事務局力の実践(7): 思いの連鎖で社会を変える

社会を変える。そんなことを真剣に考えて生きている人は、どのくらいいるだろうか?

社会起業家をめざす若者が増えている。いや、若者だけではない。大企業で働く人の中にも、環境問題、格差問題、途上国の支援、ダイバーシティ、ワークライフバランスなどに興味を持ち、それを仕事の中で追求していきたい、という人は急激に増えている。

考えているだけでは、もったいない。あきらめてしまうのは、もったいない。定年退職したらNPOでボランティアでもしようか、と思っている人も多い。だが、これももったいない。なぜなら、大企業の社員だからこそできる、大きな「社会を変える力」を活用しないことになるからだ。

さあ、事務局力の応用問題だ。社会変革の事務局になるとは、どんなことだろうか。その第一歩は、志をともにする人のネットワークを作ることだ。難しいことではない。

ネットで興味のありそうな勉強会、研修、NPOの集まりなどを見つけ、積極的に顔を出すところから始めればいい。そして参加したら、青臭くてもいい、荒削りでもいい、社会に対する自分の思いを伝え、共感してくれる人を探そう。少しでも意気投合したら、ケアメールだ。その日の晩には、メールを出しまくれ!

次に、社内での動きだ。会社に立派なCSR部があるようなら、そこに行って話を聞こう。どんなことが自社の社会ミッションなのか、どんなことが今の関心事なのか、どんな活動であれば会社として支援してくれるのか。まともなCSR部員ならば、社会的活動に関心をもった社員をないがしろにしないので、安心して絡みついてくるといい。CSR部がなければ、広報だ。とにかく自社のレピュテーション(評判)を気にしているところに、アクセスすべきだ。

次のステップは、社外のネットワークと社内のネットワークをつないだところに、自分のバーチャルな事務局を開くことだ。まずは、社外で知り合いになった人たちをメールのリストに入れて、「私の会社のCSR部とディスカッションをして、そのあと飲みませんか?」といった誘いをする。乗ってくる人が10人くらいいれば、CSR部の人と相談して場を持とう。CSR部がない場合は、違う手を考えないとね。

このディスカッションの場を持つ上で、社内外にケアメールをしっかり打つこと、一同に集まった人たちが心地よい時間を過ごせるようにアガペーモードで迎えること、そしてよい対話が行われるよう、事務局力をすべて投入してほしい。うまくいくも、いかないも、すべてはあなたの事務局力次第だから

うまくいくかどうかはわからない。だけど、退職するまで待つ必要がないことは、わかっていただけただろう。事務局力発想でいくと、フリーな身よりも、ネットワークの多い立場にいる方が、何をするにも有利だ。大企業に勤める社内社会起業家よ、テイクアクション!

2009年5月 2日 (土)

事務局力の実践(6): 最高にご機嫌なチームを作る

あなたがグループリーダー、プロジェクトリーダーなど、何か「リーダー」という名前のつくポジションについたとき、一番プレッシャーを感じるのが、チームの目標設定だろう。

通常のマネジメントでは、目標を達成するための要素を分解し、それらをメンバーで分担してやっつけていこうとする。このようなやり方は、目標が決まり切ったものだと、特に違和感はない。たとえば、モノが目の前にあって、それを全部やっつけなきゃいけないとか。だが、我々の仕事で、そんな単純なものはほとんどない。目標自体をいかに定義するかが、仕事の質の最大の要素になってきていることは、疑いの余地がない。

実は、その目標を「何に」ではなく、「どのように」決めるかで、チームを最高にご機嫌なものにすることができる。それが、リーダーの事務局力だ。

1) メンバー一人ひとりのやりたいことを突き詰める。そのとき、「チームはこうすべき」という意見には、「それはあなたのやりたいことなの?」と粘り強く問いかけなければならない。この対話をチームメンバー全員のいるところで、全員分やるのが理想だ。結果は明文化しなくてもよい。なぜなら、すでにメンバー相互の理解が深まっているからだ。(これはまさに、事務局力のケア+アガペモードの実践である)

2) 次に、メンバーのやりたいことをベースに、今年のチームとしての活動項目を描いていく。ここはアイデアベースでかまわない。注意すべき天は、「目標達成のためには・・・」という帰納的発想をしないこと、「昨年もこうだったから・・・」という前年踏襲も御法度だ。(もちろん、ここは鍋奉行ホワイトボード+付箋ワークショップを使ってファシリテーションするのが、リーダーの役割だ)

3) そして最後に、やりたいことベースで作った活動項目を組み合わせて、やらねばならないチーム目標をいかにクリアするか、という戦略を立てる。ここがもっともリーダーとしての創造性を発揮すべき瞬間だ。「何だ、やるべきことって、やりたいことをやり抜けば、楽々クリアできるじゃないか」、という気持ちになれるかどうか、ここでのマジックにかかっている。(ここが内職プレゼンテーションの能力を発揮する瞬間であることは、言うまでもない)

ここまでのアウトプットは、「やりたいことベースで目標ができあがった」ということである。

4) このあとは、ここで立てた目標をいかに各メンバーが自主的/自律的に実行していけるかが焦点だ。事務局力の「あこがれベンチマーキング」を使って、トータルにうまくいっている企業から、具体的なモデルを学ぶことが一つ。そして「あとづけバイオグラフィー」を使って、うまくいった主体的活動を大きく取りあげることにより、よい活動とは何か、ということを具体的に示すこと、それが重要である。

リーダーの仕事は、目標を示し、メンバーを引っ張ることだ、と思いこんでいないだろうか。メンバー全員が、やりたいことを目標にすることができるよう、ファシリテーションするのが、リーダーの事務局力だ。これを忘れてはならない。

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